従業員が直行直帰の際に事故を起こした場合、使用者責任は問われる?
従業員が「事業の執行について第三者に加えた損害」には、使用者は責任を負うことになっています(民法715条:使用者責任)。
では、電車やバスといった交通機関を推奨していたにもかかわらず、従業員が作業着を着てマイカーで現場に直行で向い、その途中で人身事故を起こしてしまった場合は使用者責任を問われるのでしょうか?
「事業の執行について」なされた行為であるかは、以下のように定義されています。
「必ずしも被用者がその担当する業務を適正に執行する場合だけを指すのではなく、広く被用者の行為の外形を捉えて客観的に観察したとき、使用者の事業の態様、規模等からしてそれが被用者の職務行為の範囲に属するものと認められる場合で足りる」(最判昭39・2・4)
「被用者の職務執行行為そのものには属しないが、その行為の外形から観察して、あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合を包含する」(最判昭40・11・30)
退社後に映画を見に行ったことで終電をなくした従業員が、私用を禁止されている社用車を運転して帰宅し、その途中で事故を起こしたという事案は、会社の使用者責任が認められています(最判昭39・2・4)。
このことから会社の制服を着て運転していた本件でも、使用者は責任を負うことになると考えられます。
しかし本件と同様の事案において、東京地裁平成27年4月14日判決では、4つの視点から「事業の執行について」認めることができないと判事しています。
①会社の業務の遂行そのものではないこと
②会社は現場へ直行直帰を認めており、業務の前後で会社において被告の業務またはこれに密接に関連することを行うことは予定されていなかったこと
③業務に当たって自家用車を利用する必要があるなどの事情はうかがわれず、公共交通機関を利用して指定現場に行くことも可能であったこと
④会社が従業員に対し、自家用車による通勤を命じたり、これを助長するような行為をしていたことがうかがわれないこと
詳細な事情を精査し、上記の東京地裁判決と合うところがあれば使用者責任を負わないという判断がされる可能性があります。