労働と修行の区別は? 見習いだからといって“こき使う”のはNG!
料理人や工芸品の職人など、現在も『徒弟制度』を採用している業界があり、師匠と呼ばれる使用者の下で、多くの“見習い”がその腕を磨いています。
見習いは技術が未熟なため、店舗の営業開始前や閉店後に修行をするのも当たり前で、早朝から夜遅くまでの労働になりがちです。
しかし、労働基準法第69条によって、技能の習得を目的とする者であることを理由とする労働者の酷使は禁止されています。
そこで今回は、労働基準法違反になるケースも多い徒弟制度の注意点などを解説していきます。
軽んじられる労働環境の整備
昔は丁稚奉公とも呼ばれた『徒弟制度』は、親方や師匠などと呼ばれる使用者から直接技術を教わる学習制度で、料理人や手工業の世界では現在でも広く行われています。
特殊な技能を後世に伝えるためには、弟子や見習いに直接指導を行い、訓練を重ねさせるのが効率的だと考えられており、一定の徒弟期間が終わると、いわゆる『のれん分け』のような形で、自分の店を持たせるのも一般的です。
徒弟制度における労働は修行という側面が強く、使用者のなかには、弟子や見習いの労働環境を軽視してしまう人もいるのが現状といえます。
「仕事を覚えるため」「腕を磨くため」という名目があれば、早朝から深夜まで仕事や薄給での仕事をさせてよいと思いがちですが、現在は労働基準法第69条で『使用者は、徒弟、見習、養成工その他名称の如何を問わず、技能の習得を目的とする者であることを理由として、労働者を酷使してはならない』と定められています。
職人の世界が厳しいのは常ですが、それは労働環境が整ったうえでのことであり、そもそも弟子や見習いだからといって、劣悪な労働環境で働かせることは許されていません。
師弟制度にある労働法違反の可能性とは
労働基準法第69条は、あくまで訓示規定であり、罰則などはありません。
しかし、実際に働いている弟子や見習いからの告発があれば、労働基準監督署の立ち入り調査が行われますし、指導や是正勧告も受けることになります。
さらに、たとえば、「まだ半人前だから」といった理由で、最低賃金以下の給与しか支払っていない場合は、最低賃金法違反になりますし、修行の名目で明らかな長時間労働を課していたのであれば、時間外労働の上限規制に該当する可能性もあります。
また、何時間も部屋に閉じ込めて同じ作業をさせていた場合は、労働基準法第5条の『強制労働の禁止』に違反する場合がありますし、店の役に立っていないことを理由に給与を支払わないなどの場合には、労働基準法第24条の『賃金の支払い』のルールに違反することになります。
労働基準法では、労働時間が6時間を超えるときに45分以上、8時間を超えるときには1時間以上の休憩を与えることになっていますし、休日も週に1回は法定休日を与える必要があります。
このように、労働基準法第69条には違反していないとしても、そのほかの要因が労働基準法違反になる可能性は高く、罰せられることもあります。
使用者は弟子や見習いだからといって労働環境を軽視せず、すみやかにほかの従業員と同等の待遇を用意しなければなりません。
また、たとえば料理人の見習いが自腹で食材を購入し、休日に店の料理場を借りて料理を作るなど、自発的に行われる“修行”に関しては、労働基準法違反にはなりません。
しかし、その線引きは極めて難しく、使用者側では判断ができないことも少なくありません。
実際に、労働時間の範疇では全ての技術を伝えられないこともありますし、人によって技術の習得ペースに差があるため、どうしても労働時間が長くなってしまうこともあるでしょう。
それでも、徒弟制度を取り入れている使用者は、労働基準法違反にならないように最大限気をつけ、労働環境が悪ければ、それを是正していく必要があります。
ひいてはそれが、見習いや弟子たちが一人前になる近道でもあるのかもしれません。
※本記事の記載内容は、2020年11月現在の法令・情報等に基づいています。