会社の経営状態をより深く理解するために!『簿記』を知ろう
近年は会計ソフトの普及により、経営者や経理担当者が必ずしも簿記の知識を持っている必要はなくなりました。
しかし、本当の意味で会計業務を理解するためには、簿記に関する知識が必要です。
簿記の知識は、会社の財政状態や経営成績を把握する力やコスト感覚を養ううえで役立ちます。
経営戦略も立てやすくなることでしょう。
今回は、簿記についての基本的なことのほか、簿記を学ぶ多くの人が挑戦している日商簿記検定試験について解説します。
簿記には『単式簿記』と『複式簿記』がある
簿記とは、企業等のお金の流れを一定の方式で帳簿に記録していく記帳法のことをいいます。
簿記はヨーロッパにおいては大昔からあるもので、日本では1873年に福沢諭吉が日本で初めて西洋の商業簿記を基にした『帳合之法』を出版したことで、導入が始まったといわれています。
現在の簿記は、記帳法の違いによって『単式簿記』と『複式簿記』の2種類に分けられます。
単式簿記は、主に現金の増減に関して、収入と支出のみを記録するというシンプルな記帳法です。
お小遣い帳や家計簿などがその典型で、比較的資産状況が簡易なものによく使われます。
出入金を把握するだけなら、単式簿記で十分でしょう。
一方、複式簿記では、“複式”の名前のとおり、一つの取引を『借方』と『貸方』という二つの側面から記録していきます。
借方と貸方とは、いわば取引の“原因と結果”を意味するもので、この二面から取引を記録することで、現金の出入金だけでなく、それに伴う資産や負債の増減や利益についてもわかるようになります。
ひいては、経営成績や財政状態を把握することができるのです。
このように、借方と貸方に分けて記帳することを『仕訳』といいます。
複式簿記の手順は単式簿記よりも複雑で、より多くの知識が必要ですが、企業の会計業務に使用されるのは、原則的に複式簿記のほうです。
企業の決算報告ではこの記帳法で作成された損益計算書と貸借対照表を公表することになっています。
企業の会計処理において、『帳簿』という言葉が出たら、ほぼ複式帳簿のことだと考えて間違いないでしょう。
また、複式簿記による記帳は、青色申告で65万円の青色申告特別控除を受けて確定申告をする際の要件の一つになっています。
節税の意味でも、複式簿記はぜひとも覚えておきたいところです。
簿記の知識が身につく日商簿記検定試験
簿記を学ぶ際に活用したいのが検定試験で、代表的なものには、日本商工会議所と各地の商工会議所が主催している『日商簿記検定試験』(以下、日商簿記)があります。
日商簿記は社会的に高い信頼を得ている検定で、企業が従業員に対して資格取得を奨励していることも多く、年間で約60万人が受験しています。
試験は全国統一日程で、年に3回、6月と11月と2月に行われています(1級は年2回)。
実際に日商簿記を受けるかどうかは別として、各級の合格ラインを目標にして勉強することはモチベーションを保つうえでも効果的ですし、テキストもたくさん出ているので、勉強をする際に教材がなくて困ることはありません。
日商簿記で取り扱うのは複式簿記で、初級、3級、2級、1級という級ごとにさまざまな簿記の知識が問われます。
初級は、複式簿記の基礎的な仕組みを理解しているかどうかを問う、簿記初学者向けの入門級で、実際に、会社の会計処理で必要になってくるのは、3級以上のスキルです。
3級以降の概要は以下の通りです。
●3級
初歩的な商業簿記の知識が問われます。
小規模企業の企業活動や会計実務を踏まえ、経理関連書類を適切に処理するスキルが求められます。
3級を取得していれば、損益計算書や貸借対照表の作成方法などは身についているといえるでしょう。
2020年11月の試験の合格率は47.4%(合格者数30,654名)でした。
●2級
高度な商業簿記と工業簿記の知識が問われます。
財務諸表を読む力があるなど、企業活動や会計実務を踏まえたうえで適切な処理・分析ができるレベルが求められます。
企業の経理担当者であれば、ぜひとも取得しておきたい級でもあります。
2020年11月の試験の合格率は18.2%(合格者数7,255名)でした。
●1級
極めて高度な商業簿記をはじめ、会計学、工業簿記、原価計算の4科目を習得していることが合格の基準になります。
会計基準や会社法、財務諸表等規則などの企業会計に関する法規を踏まえて、経営管理や経営分析を行うことができるレベルです。
1級を持っていれば、複雑な会計を扱う大企業の経理や会計処理を担当することも可能だと考えられますし、税理士試験の受験資格も得られます。
難易度が高いため合格率は低く、2020年11月の試験の合格率は13.5%(合格者数1,158名)でした。
ちなみに、日商簿記以外にも、全国経理教育協会が主催する『全経簿記能力検定』や、大阪商工会議所および施行商工会議所が主催する『ビジネス会計検定試験』などもあります。
簿記検定は、自分が現在どのくらい簿記の知識があるのかを測るためのよい目安となるので、気になる試験があれば、受けてみてもよいかもしれません。
※本記事の記載内容は、2021年4月現在の法令・情報等に基づいています。