損金算入できる『飲食費』が1万円に引き上げ! その背景は?
2024年度の税制改正により、2024年4月1日以降に発生する取引先との飲食費に関して、損金算入できる上限額がこれまでの一人当たり5,000円から、10,000円に引き上げられました。
事業者にとっては、取引先との関係維持や新規顧客の開拓などがしやすくなるといったメリットが考えられます。
では、なぜ経費にできる飲食費の上限が10,000円に引き上げられたのでしょうか。
引き上げに至った背景や、会計処理の方法などを確認しておきましょう。
交際費のうち一部の飲食費は損金算入が可能
会計上、取引先への接待、供応、慰安、贈答などを目的とした支出は、すべて『交際費』に該当します。
たとえば、取引先を招いた懇親会を開けば、会場代から飲食代に参加者のタクシー代まで、すべての支出が交際費に含まれますし、取引先に送るお中元やお歳暮、取引先を接待するためのゴルフや旅行などにかかった費用も交際費となります。
通常、自社の業務で発生した支出の多くは、経費として計上することができます。
出張のために飛行機を使えばその費用は旅費交通費として、商品の広告や宣伝に使った費用は広告宣伝費として計上できます。
ただし、交際費に関しては、すべてを計上できるわけではありません。
交際費は損金不算入の原則がありますが、2006年度の税制改正によって、交際費のうち一人当たり5,000円を上限とした『飲食費』については、損金として算入できることになりました。
つまり、一人当たり5,000円までの飲食費は、交際費の範囲に含まれないということです。
したがって、これまでは従業員が取引先との飲食代として使える額を一人当たり5,000円以下に設定している企業が少なくありませんでした。
しかし、「飲食需要の拡大を妨げている」「物価が上昇している中で上限が5,000円では厳しい」などの指摘が相次いだことから、2024年度の税制改正によって、損金算入できる飲食費の上限が2024年4月1日より5,000円から10,000円に引き上げられました。
財務省発表のデータによると、1990年代初頭は約6兆円もあった企業の交際費は、近年では3兆円前後の水準まで半減しています。
今回の税制改正で飲食費の上限を引き上げることにより、企業の営業活動を促進させ収益機会の向上や飲食店の需要喚起を図り、経済の活性化を目的としています。
引き上げに伴う会計処理の注意点
引き上げられた一人当たり10,000円の飲食費は、飲食店1軒に対しての上限です。
たとえば取引先の接待を伴う飲み会において、一次会と二次会を別のお店で開催した場合、それぞれ一人当たり10,000円までは損金算入できます。
ただし、飲食費が10,000円を超えた場合に、10,000円の範囲だけを飲食費にすることはできません。
具体的な例をあげて説明すると、1軒につき一人当たりの飲食費が12,000円だった場合、12,000円の全額が交際費となり、損金として算入できないので気をつけましょう。
ちなみに、10,000円を超えてしまった場合でも、自社の従業員だけで飲食店を利用した場合は『福利厚生費』として、費用の全額を経費計上することが可能です。
ただし、その場合、全従業員が対象である、現物支給でない、社会通念上妥当な金額であるなどの要件を満たす必要があります。
また、中小企業には交際費のうち800万円までを全額損金算入できる特例措置があり、今回の税制改正によって、措置の期限が3年間延長(2027年3月末まで)されました。
飲食費が一人当たり10,000円を超えたとしても、中小企業であれば800万円までは交際費として全額損金算入できます。
経理担当者が会計処理する際には、消費税の取り扱いにも注意が必要です。
飲食費として認められるのは、税抜経理を採用している企業であれば『税抜』で10,000円まで、税込経理を採用している企業であれば『税込』で10,000円までとなります。
税制改正に伴う5,000円から10,000円の飲食費の引き上げによって、コロナ禍を経て売上が伸び悩む飲食産業の活性化と、企業間の取引の維持および拡大などが期待されています。
企業の会合や接待などの需要が多い飲食店は客単価を上げられますし、一般の企業もこれまで以上に取引先との関係維持や、新規顧客の開拓などがしやすくなるでしょう。
まずは、社内規定や慣習などを見直し、利用できる飲食費の上限が5,000円となっているのであれば、10,000円に修正し、同時に従業員への周知も行いましょう。
今回の税制改正をきっかけに、飲食店を活用した営業活動に力を入れてみてはいかがでしょうか。
※本記事の記載内容は、2024年6月現在の法令・情報等に基づいています。