従業員を守るために企業が負う義務 『カスハラ』の法的な問題点を知る
業務に支障をきたすような顧客による悪質なクレームのことを『カスタマーハラスメント(カスハラ)』と呼びます。カスハラ対策は事業者の責務であり、放置したままだとさまざまなリスクが起こり得ます。従業員を守るために知っておきたいカスハラ対策について解説します。
安全配慮義務違反にならないよう企業として対応方針を定めておく 本来、顧客からのクレームは商品やサービス、接客などの向上に役立つものであり、それ自体が問題視されることではありません。しかし、それが妥当性のない不当な言いがかりだったり、従業員に精神的なストレスを与えるものだったりする場合は、カスハラに該当する可能性があります。たとえば、商品やサービスに問題がないのに顧客が理不尽にクレームをつける行為や、従業員や店への中傷や侮辱、暴言の言動などが該当します。 労働契約法に基づき、事業者は従業員が安全に働けるように必要な配慮をする『安全配慮義務』を負っており、カスハラに関しても従業員を守るための適切な対応を取らなければいけません。もし、従業員が顧客からカスハラを受けたにもかかわらず、適切な対応を行わなければ、安全配慮義務違反となり、カスハラの被害に遭った従業員から、損害賠償の請求を受ける可能性もあります。では、事業者はどのようなカスハラ対策を講じればよいのでしょうか。カスハラの判断基準は企業ごとに異なるため、まずは自社の基準を明確にして、対応の方針を決めておきましょう。JR東日本では、2024年4月にカスハラへの対応方針を定め、毅然とした対応を行なうためのガイドラインを打ち出しています。また、同年6月には、大手航空会社の全日本空輸(ANA)と日本航空(JAL)が共同でカスハラへの対応方針を公表したことが報じられました。この対応方針では、脅威を感じさせる言動や暴行などの一般企業でも起こり得るカスハラのほかに、「業務スペースへの立ち入り」や「客室乗務員の盗撮」などもカスハラに該当する行為としてあげられています。
犯罪行為に該当するカスハラも従業員のメンタル不調にも要注意
カスハラにはケースによって法的な対応が必要になる場合もあります。たとえば、顧客が従業員に対して暴行を加えた場合は、刑法に定める暴行罪や傷害罪に問うことができますし、暴行によって業務が妨害された場合は威力業務妨害罪になります。また、暴力を振るっていなくても、「殺すぞ」「殴るぞ」などの発言は危害を及ぼすことを示唆した脅迫罪に該当します。ほかにも、「謝礼として金を払え」などの発言は恐喝罪、「土下座しないと殴るぞ」などの発言は強要罪が成立する可能性があるので、すぐ警察に通報するようにしましょう。ただし、カスハラは現場で対応できるものだけとは限りません。明確な犯罪行為を除き、判断がむずかしいようであれば、社内相談窓口など関連する部署に情報共有を行い、適切な形で顧客に対応する必要があります。また、カスハラを受けた従業員のケアも重要です。カスハラは業務の支障や時間の浪費などのほか、健康不良や休職、パフォーマンスの低下といった従業員への影響が懸念されます。特に顧客の対応がメインとなる部署では、定期的なストレスチェックを行うことが大切です。従業員にメンタルヘルス不調の兆候があれば、産業医やカウンセラーによるケアを行いましょう。厚生労働省の発表によれば、過去3年間にハラス
メントの相談があった企業のうち、カスハラはパワハラ、セクハラに続いて割合が高く、増加傾向が予測されます。こうした事態を背景に、東京都では全国初となるカスハラ防止条例の制定を検討しています。全国的にカスハラに厳しい目が向けられるなか、事業者としても従業員を守るために、カスハラを行う顧客に毅然とした対応をしていきましょう。