「名ばかり管理職」の法的リスクと 企業がとるべき対応とは?
近年、管理職としての肩書きを持っていても、実際には管理職としての権限や報酬を得てい
ない「名ばかり管理職」が社会問題になっています。今回は、「名ばかり管理職」の問題点
や法的リスク、企業がとるべき対応などについて説明します。
「名ばかり管理職」の問題点は?労働基準法の管理監督者の要件
「名ばかり管理職」とは、肩書きは管理職でありながら、実際には管理職としての権限や報酬を得ていない従業員のことです。労働基準法の管理監督者に該当する者は労働時間や休憩、休日に関する規定が適用除外とされていますが、名ばかり管理職の問題点は、企業がこれを都合よく解釈して、従業員を管理監督者扱いにすることで、労働時間を把握せず、残業代を支払わないことです。労働基準法では、管理監督者とは「監督もしくは管理の地位にある者または機密の事務を取り扱う者」と定義されており、管理監督者として認められるには、主に、①労務管理について経営者と同等の権限を持っている、②出退勤などの労働時間について自由裁量が認められている、③賃金などその地位にふさわしい待遇がなされている、などの要件を満たすことが求められます。企業が、これらの要件に該当しない者を管理職として扱い、残業代などの割増賃金を支払っていなかった場合は、違法行為となる可能性があります。こうした名ばかり管理職が生じる背景には、企業の競争力強化のためのコスト削減がありますが、これにより企業は法的リスクを抱えることになります。名ばかり管理職の問題について裁判で争われた事例に、2008年のマクドナルド事件があります。当時マクドナルドは店長を管理監督者として扱っていましたが、裁判では職務の内容や権限、賃金などの待遇の観点から管理監督者にあたるとは認められませんでした。また、ほかの飲食業や小売業でも同様の事例があり、職務権限や出退勤の自由裁量といった観点から店長などを管理監督者として扱うことが否定されたケースがほとんどです。
「名ばかり管理職」問題への対応 基準の明確化と労務管理の適正化
名ばかり管理職の法的リスクを回避するためには、企業は次のような対策を講じることが必要です。まず、企業での管理職の定義を先に紹介した管理監督者の要件に照らして見直すことが重要です。管理職の基準を明確にしたうえで、管理職に該当する従業員とそうでない従業員との線引きを行います。また、労働時間管理の適正化への取り組みのため、管理職にも適用すべき労働時間ルールを整理することも大切です。管理監督者についても、深夜労働については別途把握し、割増賃金を支払う必要があり、また、健康確保を図る必要があることからも、適正な労働時間管理を行わなければなりません。労働時間管理に関して管理職に自己申告制を採用している場合でも、パソコンのログイン・ログオフやIDカードの入退室記録などの客観的データと照合することで、勤務実態との乖離がないかチェックできます。そして、管理職の線引きをした場合は、残業代未払いリスク回避のためにも、管理職に該当しないとした者には時間外割増賃金を支給しなければなりません。現行の給与体系に役職手当など管理職としての対価がある場合に、それを控除したうえで新たに時間外割増賃金を支給する方法をとる際は、変更の合理性を従業員へ説明し納得を得ることが重要です。また、訴訟リスクを減らすためには、管理職に昇格させる際に、その役割や権限、処遇などについて教育することも大切です。「名ばかり管理職」問題を放置すると、企業は大きなリスクを抱えることになります。このリスクを回避するためには、管理職の明確な基準の設定と適正な労務管理が求められます。