「できる」前提で部下を育てる
プロスポーツの指導者には、ふたつのタイプがある。
選手が「できない前提」に立ったチーム作りと、「できる前提」に基づいたチーム作りである。
前者のアプローチは、選手に「できない」ことはさせずに、「できる」ことをとにかく徹底してやらせるというものだ。
選手が持っている「1」の力が「0.5」や「0.8」に低下しない働きかけをすることで、安定感のある戦いを実現させる。
短期的な成果を上げるには有効な手立てだ。
常勝を義務づけられたチームの場合、「できない」ことの少ない選手を集め、目の前の結果を追求していくパターンが多い。
他チームからの補給に積極的なプロ野球の巨人が分かりやすいだろう。
一方の「できる前提」に立った指導は、積極的にトライさせるアプローチだ。
最初から「これはできない」と決めつけず、ミスを恐れずにプレーさせる。
何度でも挑戦させ、「できる」ことを増やしていく。
結果よりも育成に重きを置いた考え方で、プロスポーツの世界では若手の多いチームに用いられる。
チーム=組織の論理ではなく、選手の立場で考えてみたらどうなるか。
やり甲斐のある組織は、どちらだろうか?
できないことを避けても結果を残せば、達成感を得ることはできる。
しかし、「できない」ことに手を付けない姿勢から、積極性や自主性は育まれない。
監督=上司が変わったら、「私の好み(哲学、戦略)に合わないから、君は使えない」といった判断を下されてしまうかもしれないだろう。
企業には人事異動がある。
だとすれば、どんな上司のもとでも戦力となる部下の育成は、上司の責任ではないだろうか。
人材育成は普遍的なミッションだろう。
サッカーJ2リーグ・湘南ベルマーレの曺貴裁(チョウ・キジェ)監督(45歳)は、「できる」ことを増やす指導を追求する。
「我々の選手ならできる」が口癖だ。
彼のもとで育った選手は、他チームへ移籍しても活躍している。
チームは9月23日に、史上最速でのJ1昇格を決めた。
選手を育てつつ結果を残すことは、決して不可能ではないのである。