「つながらない権利」に注目 いま企業が考えるべき実務対応
「つながらない権利」とは、勤務時間外や休日において業務上の連絡や対応を強制されないという考え方です。テレワークの普及や働き方の多様化を背景に、国レベルで検討が進められています。今回は、今後の法制化の動向を見据えた企業の対応について解説します。
つながらない権利とは国内外の動向と背景整理
近年、情報通信技術の発展に伴い、テレワークや業務用チャットの普及、社用携帯電話の貸与などにより、以前と比べて、いつでもどこでも業務に関するやり取りを行うことができるようになっています。こうした環境は従業員にとってもメリットはありますが、一方で、勤務時間外や休日であっても業務連絡が届くことが常態化し、従業員の負担になるケースも増えています。
「つながらない権利」とは、勤務時間外や休日において、業務上の連絡や対応を求められない、または対応しなかったことによって不利益を受けない権利のことで、従業員の心身の健康を維持し、ワークライフバランスを実現するために重要視されています。日本ではまだ法令上の定義はありませんが、勤務時間と私生活の境界があいまいになるなかで、労働者の休息時間や私生活を守る観点から注目されています。
すでに欧州諸国においては、法整備が進んでおり、勤務時間外の連絡ルールの整備を企業に求める法律が制定されています。フランスでは、労働法の改正により、従業員は勤務時間外にメールなどに返信しなくてよい権利を持つことが法定されています。こうした動きは、日本でも働き方改革や健康経営の流れで参考にされ、テレワークガイドラインや労働時間管理に関する指針のなかで、勤務時間外の業務連絡に配慮する必要性が示されています。また、国の審議会などにおいても、業務と常につながり続ける働き方が健康に与える影響について議論が進められており、勤務時間外の連絡について将来的にはルール整備につながる可能性があります。
放置するとどうなる?実務リスクと企業の備え
企業が勤務時間外や休日であっても業務連絡が届くことを常態化したまま放置しておくと、次のようなリスクが生じます。
①労働時間管理や未払い残業のリスク
勤務時間外のメールやチャット対応が常態化すると、労働時間とみなされて、企業に残業手当の支払い義務が生じる可能性があります。その結果、未払い残業や長時間労働などの労務問題に発展するおそれがあります。
②メンタル不調や労災認定のリスク
勤務時間外や休日でも業務から切り離されない状態が続くと心理的負荷が高まり、従業員が心身の健康を維持するのがむずかしくなります。その結果、メンタル不調や精神障害の労災認定につながるケースもあります。
そこで、このようなリスクを回避するためにも、企業は今からできる対策を進めていくことが大切になります。現時点で企業に法的な義務がなくても、勤務時間外における連絡のルールや目安の設定、緊急時のみ連絡可とする基準の明確化、管理職に対して設定した社内ルールの周知と意識づけなどの取組みを労使で検討し実施することは可能です。国のガイドラインの整備や制度化の動きを見据えて、早めに社内ルールを整えておくことが望ましいでしょう。
つながらない権利は、まだ制度として確立されていないものの、国の動向を見る限り、今後ルール化が進む可能性は高いと考えられます。法対応を迫られてから慌てるのではなく、働き方や連絡ルールを見直すことで、企業のリスク管理と従業員の健康確保の両立を図ることが重要です。





